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金糸平埋め『若冲虎の紙入』〜midoriさんの作品〜 |
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皆様、新年あけましておめでとうございます。
ブログを始めた当初は、こんなニッチな話題でどこまでブログを続けていけるのかね〜と他人事のように思っていましたが、おかげさまで話題尽きることなくここまで突き進んで来ることができました。 これも応援してくださる皆様のおかげと思っております。
「いつも読もうと思うのですが読みきれなくて、、、」と本心を語ってくれる方もいらっしゃいますが、いいんですよ〜画像だけさっと流して見ていただいても、ほとんど理解できますので(笑)。
また、ブログと同様「筥迫掲示板2」に画像アップして盛り上げてくださる皆様にも心より御礼申し上げます。
さて、年の始めにふさわしく、今回は昨年のお針子会刺繍教室の作品展で、嚢物コーナーの目玉だったmidoriさんが刺繍された『若冲虎の紙入れ』をご紹介したいと思います。
どうですこの輝き!!
midoriさんから送っていただいた製作秘話を交えながら、この紙入れについて書きたいと思います。 (以下緑字部分はmidoriさんの実際の文章)
2016年、midoriさんが「風呂敷」に刺繍をしようとしている!という噂が刺繍教室に飛び交いました(笑)。
日本刺繍のモチーフに若冲の絵を用いることはよくありますが、それをなぜ風呂敷にする??? と私の頭の中は?マークでいっぱい。
なにせ風呂敷なので、荷物を包んだ時にトラや花が出てこないと、と言う事で不思議な位置に図案を配置しました。
大きな特大版の風呂敷の為、生地を半分に裁断し、半分にしても大きい生地を刺繍台に取り付ける為、大きな刺繍台(多分110cm台)を購入し、いよいよスタート。
「花」はすぐに出来たものの、問題の「トラ」は刺繍教室の矢部先生に「毛並と迫力がポイント!」と言われ、トラなんて写真でしか見たことないのに、毛並なんてううう分からない、、、。
そんな折り、midoriさんは猫を飼い始めます。 リアル猫の毛並を参考にしながらトラの刺繍が始まりました。
しかし、大きな刺繍台はニャンコの遊び場となり、刺繍台の下から針と糸が出てくるのを待ち構えては飛びつかれ、泣く泣く本日の刺繍は終了。 そんな状況にもかかわらず、2016年10月には更に2匹目ニャンコも登場し、自宅ではほとんど刺繍台を出すことなく、お教室でのみの刺繍となってしまったのです。 そして2017年の5月頃、11月に作品展があるとのが矢部先生から衝撃的な報告ありました。
(いや、もっと前から決まっていたと思うのですが、たぶんmidoriさん聞いちゃいない、、、)
そんなの無理!今年は棄権だわ〜とのんきに思ったのもつかの間、 ”ここであった会ったが100年目” のハコセコ先生rom筥さんに会ってしまったのでした。
「風呂敷はやめて金封袱紗にしよう。」
その一言で壮大な歴史に残る刺繍風呂敷から、一夜にして金封袱紗に変更となりました。
この画像は私に話が来た時点での進行状態(作品展まであと半年)。
風呂敷は不定形の物を入れて結ぶので、そんなに都合よく柄が出るわけもない。 せっかくトラの毛並も上手にできているのに(そしてまだ半面同じぐらい凝った柄を入れる予定のmidoriさん)に頭を抱えた矢部先生から密かに「rom筥さん、どうにかならないかしら?」とご相談があったのでした。
テーマの違う柄なので、この状態から袋物を作ろうとすると3点に分けなければならない。 仕立てに必要な余白を考えながら、トラを金封袱紗に、花2点はそれぞれ二つ折りの懐紙入れにすることを提案しました。
しかしここで私は、袱紗の中にポツンとトラ、、、なんか寂しくない?とうかつな一言をrom筥さんに振ってしまったのでした。 そこで、金糸で埋められ神々しいまでも眩しい昔のお財布やお化粧道具入れの写真を薦められ、つい ”すてき、、、
これらの刺繍を別々の袋物に分けたとして、この豪勢なトラの背景がパステルピンクのままはいただけない。
そこで背景はピンクの影響がないように、刺繍で埋め尽くすことを提案しました。 始めは竹の図案でストライプに埋め尽くすという案を出したのですが、どうもmidoriさんはイメージが湧かないご様子。
その日全く違う目的で刺繍教室の方から袋物作りの参考にといただいた「和宮さまの袋物揃え(金糸平埋め)」のカラーコピーを見ながら、もしかして上手く乗せられたらmidoriさんこれできるんじゃない?と閃き、薦めてみることにしました。
背面もびっしりと金糸で平埋めされています。 刺繍に慣れた人ならば出来ないことはないとしても、現代人は絶対にやろうと思わないほど手間のかかる作業です。 しかしここでマグロ属の本領を発揮しないで何とする!
このように平埋めされた裂を袋物に仕立てるためには、縁を正確な直線で刺繍をしなければならないので、今回ばかりは勝手に進めずにとにかく打ち合わせを密にすることを強要しました(目を離すとすぐどこかに泳いでいってしまうマグロなので)。
当初midoriさんからもらった背面の下図は、別のところから図案を持ってきた「鳥」が入っていました。 しかしこれが表の若冲の絵に合わない! そこで「背面の図案も若冲の絵の中から取るように」とダメ出し。 この度の「蝶々」に変更になりました。
あまりの素晴らしい出来に、作品展ではこの背面もしっかり見せられるように「鏡」を使った展示になりました。
表の裂の格に合わせて、内布は通常表布で使うようなしっかりとした裂を使っています。 これぐらいの内布でないとバランスが取れない。 (この裂のサイズが足りないため、しかたなくコンビ使い) 持ち出し口の左側に小さなチャームがついているのがわかりますか? ちなみに、私がつけたものではありません。 裂が届いたときに中を確認すると、「あれ?なんかゴミが付いている?」と思ってよく見ると小さな小さなチャームが付いていました! 日本刺繍にチャームか!いかにもmidoriさんらしい発想(笑)。
このような裂を襠なしのただの金封袱紗にするのは余りにももったいないので、厚みに影響しない程度に折り襠を入れています。
4月からさらにもう一匹ニャンコが増え、刺繍台をガードしながらの刺繍はより気を使いました。 なぜなら常に周囲360度を見張ってないと、”ヒマ〜” と化したニャンコたちがどこからともなく音もなく、刺繍台へ飛んでくる! それだけは防がねば。
気がつけば7月も終わり、この頃rom筥さんから、刺繍の出来上がりの期日は8月いっぱいが望ましい(最悪でも9月)とのお達しが。 えええ〜そんなの無理!と思いつつ、しかたなく8月のお盆前にはトラを仕上げ、お盆から金糸平埋めをすることに。 出来上がり目標は9月の第一週!
(いつも言っていますが、midoriさんはフルタイムでお仕事をしています)
しかし気合いを入れて刺繍をした金糸平埋めでしたが、刺繍の仕方を間違え、8月第四週目にしてすべて解いて0からやり直し、、、。 もう無理、と弱気になっていたところ、1/5ぐらいを終えた時点の平埋めが余りにステキ過ぎる。 これが全部埋め尽くされたら、、、
そこからはエンジン全開。 車にたとえればハイオクガソリンを満タンにしたフェラーリ。 仕事から帰って20時頃から深夜3〜4時ぐらいまで毎日毎日平埋めを続け、終わりが見えて来た9月第2週目の刺繍教室の前日は気合いを入れ過ぎて徹夜をしてしまいました。
(いつも言っていますが、midoriさんは20代の娘さんがいる年齢)
そして忘れもしない9月26日、最後の仕上げの糊づけ作業での出来事。 8月にもう一匹増えたニャンコ(全部で4匹)に糊をおやつと勘違いされ、そのうちの一匹に糊なめさせてくれ〜!とばかりに刺繍台の下から手を伸ばし、花の刺繍と金糸部分の1本を爪で”ピーーーーーーー”と引っ張りました。
ぎゃあああああ〜〜!!
しかし、すぐに直せたので一安心。 9月27日に台から布を外し、何とかrom筥さんに納品することができました。
midoriさん、私と矢部先生の目論見に上手く乗ってくれてありがとうございました(笑)。
midoriさん曰く「rom筥さんは私のお抱え仕立師なので〜」とのこと。 まぁ、仕立師にとっては夢のようであり、刺繍師にとっては悪夢に他ならない作業ですが、それを口先ひとつで乗ってくれるmidoriさんという存在は、私の活動に限りない夢と希望を与えてくれます。 共栄共存であればこれ幸い。 これが一番理想的な関係なのかもしれません。
納品されたときの裂の状態。 隣接する刺繍を考えると、ほぼ折りしろは5mmぐらいしか取れないという状態でしたが、もう最近はこういうことには慣れました。 (けっこう無謀な依頼は多いので)
しかしこんな金封袱紗を使ったら、中身(金額)を相当入れないと釣り合わない、、、?? ということで、何をいれても構わない「紙入れ」に名称変更しました。
筥迫から始まった私の袋物普及活動ですが、midoriさんのおかげで現代人の手でもこんなに素晴らしい袋物ができるのだということを証明できる段階まで来ることができました。
これだけの手間をかけた袋物というのは、同じぐらいの技能とエネルギーを持った刺繍師と仕立師がいなければ作れないと私は思っています。
金封袱紗に襠が付いたぐらいなので、型としてはそれほど難しくはありません。 しかし、刺繍ができるなら袋物の仕立て方さえ習えば同じ物が作れるかも!と簡単に思ってはいけません。
日本刺繍の裂を扱うのでさえ難しいのに、元の布が見えないほど装飾で埋め尽くされた裂です。 袋物で難しいのは型を作ることじゃない。 本当に難しいのは、どんな裂を使っても同じような仕上がりに作ること。 これが何より難しい。 これが仕立師にとっての戦いです。
折しも時は秋、作品展シーズン。 今年は他所さまからの難しい仕立てと重なり、私にとっては生気を吸い取られるような2017年の秋でした。
画像をネットにあげること
ここまでブログを続けられたことを思うに、多分に掲載画像が豊富にあったことがあげられます。 私が作家活動をメインにしていたら、それほど多くの画像は扱えなかったことでしょう。
皆さんに袋物を作ってもらうことや、刺繍の依頼をいただけることで、ブログに掲載画像を増やせたことが幸いしたと思っています。 やはりネットの世界では画像が何よりのインパクトになります。
あくまで文章中心なので、流行りのインスタよりやはりブログ向きでしょうか。 最近はピンタレストにも画像が多く乗るようになってきたので、ちょっと心配することもありますが。
アクセス数が少なかった当初は、このような画像が大きな宣伝になりましたが、少しずつ注目が集まってくると色々な弊害や問題点が出てきます。
日本刺繍をもっと専門にやっている人たちはたくさんいるでしょうに、日本刺繍で検索すると筥迫工房の画像がかなり上がってきます。 たぶん日本刺繍の人たちは、画像使用の問題を考えて大々的にアップできないということなのかなと思います。
ネットを使わないで何かの活動を始めるとなると、それこそ公募展などで賞を取らない限り、世の中に周知される機会はありません。
物を作る人間ならば、やはり一人でも多くの人に作品を見てもらわなければ始まらない。
ネット検索で筥迫や袋物とは全く関係のない方がこのブログに来て、「こんな世界があったんですね!」と感激して連絡をくださることがあります。
「袋物細工」は小さな画面にやたらとエネルギーを注ぎ込んで作るので、画像を通しただけでも伝わりやすいのかもしれません。
「画像を見るだけで癒されます」というのは、かつていただいたお言葉。
現代の革や人工皮革、ビニール製品のように惜しげなく実用できるものではありませんが、それでもとりあえず袋がついて実用できる。 それなのに、見ているだけで癒されるとは、袋物を作る人間にとって一番の賛辞にも思えます。
ネットに画像をあげる以上リスクは付き物ですが、できればニッチな世界からあまり広がりすぎず、ただ眺めて癒される人たちの中だけで楽しんでいただける存在であることを願っています。
▼筥迫工房の講習会
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