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筥迫ミステリーツアー(2)〜中村公隆さんと徴古裳〜

前回のKUIPO見学の記事に、民族の大移動か?と思われるようなアクセス数があり、かなり戸惑っております。
だからといって内容が変わるわけでもなく、とりあえず今回も通常運転で書こうと思います。どうぞ皆さんお手柔らかに。


金唐革(きんからかわ)のこと

見学会に先立ち、KUIPO担当者さまから「監修者の中村公隆さんに所蔵品の説明をしていただきます」とのご連絡をいただきました。
見学会にわざわざ解説の方をつけていただけるなんて!と単純に喜んでいたのですが、中村公隆さんがどのような方か存じ上げなかったので、金唐革の専門家ですか?とお聞きしたところ、金唐革をはじめ、佐賀錦等を使用したハンドバッグ・小物を企画販売されている方とのこと。

金唐革は筥迫と同じ嚢物ですが、とても一般人が手にする機会はないだろうという希少品なので、これまで私にとってはかなり遠い世界のものでした。
とはいえ、これを機会にまた一つ世界が広がりそうな予感がして、当日をとても楽しみにしておりました。

中村さんは展示品の金唐革の解説とともに、ご自身がプロデュースされているという現代の金唐革のバッグをお持ちになり、それを私たちに直に触れさせてくださいました。
ツルツルの表面は植物由来のプラスチックでコーティングされているので、雨に濡れても大丈夫とのこと。
中世の昔からそんな技術があったということがホント驚きです。

今では重厚な色合いに落ち着いた金唐革の展示品も、江戸の当時は金彩もずっと鮮やかだったことでしょう。
人々はそこに描かれた西洋の風景や絡み合う草花、天上の天使を見て、遠い異国の地を黄金郷のように思い描いたかもしれません。

当時でさえ大変貴重なものだったので、煙草入れ一つで小さな家が一軒買えるぐらいの金額がしたそうですが、今ではそこまで高くはないですと笑っておられました。(それでもン十万円)

最近では「通販生活」とのコラボで金唐革の札入れを作られたそうですが、かなりの人気に早々に申し込みを終了したそうです。
通販生活を見る人たちが金唐革の存在を知っていること自体、びっくりしてしまいますけどね。


中村さんはお仕事で何人かの腕のよいバッグ職人さんを抱えているそうですが、その職人さんでさえも、金唐革で作られた当時のたばこ入れと同じ物は作ることができないそうです。
どんなに入念に調べても、縫い目がないだとか、どこで接いでいるかなどがわからないとのこと。

私も以前あるところで、江戸時代の筥迫を手に取って見せていただいたことがあります。
この時代の筥迫は、物によっては複雑な仕立てもあるようですが、単純な箱型に背面に紙入れ部分が付いているものがほとんどです。
これならば同じ物を再現できるはず!と念入りに探ったのですが、布のはぎ目、玉縁の処理、どの段階で芯に貼り込むのかなど、目を凝らして手順を追うのですがどうしても理解できないのです。

江戸の職人の技術というのは本当に不思議です。
時代と共に便利さや効率的考えが自然に身に付いてしまった現代人には、それらの便法を跡形もなく捨て去ったところから考え始めないと理解できないような、そんな次元の違いを感じます。
教養がなければこんな装飾はできないというようなものもあるし、当時の職人は相当頭が良かったと思いますよと中村さんもおっしゃっていました。

昔の師弟は口伝のみで作り方を伝授するものと思っていましたが、場合によっては教えることもなく、ひたすら師匠の仕事を見て盗み取るだけという場合も多かったようです。
手で触って見てでさえわからない作り方なら、弟子でさえ完全に盗み取ることは難しかったでしょう。
こういうものは技術の伝承が難しいともおっしゃっていました。
幻の技術と言ってしまえば聞こえはいいですが、美術館などで人から触れられることもなく眠り続ける技術と、時代と共に生き自由に変化していく技術、どちらも考えさせられますね。

これらのコレクションを、戦時中、荷車で何度も疎開先を往復して避難させたお話なども聞くことができました。
これまで大切に保存し、携わった方々のご苦労があったからこそ、今私たちがそのすばらしい作品を見ることができるのですね。
そんな幸せにどっぷり浸ることができた一日でした。

しかしながら解せないのは、金唐革のバッグをプロデュースされている中村さんが、なぜこれらのコレクションの監修をされたのか、、、、。
その答えは、見学会が終わり、次のオフ会会場に向かう道すがら判明いたしました。


徴古裳のこと

「中村さんは徴古裳のサイトを作られた方ですよ」

ことの始まりであったワークショップで、「徴古裳から嚢物の画像がなくなったことをご存知ですか?」と教えてくれたY.Kさんが、駅の階段を下りながらぽろっと口に出した一言でした。

「ええ〜っ!うそ〜〜〜っ!!!」
もう階段からずり落ちそうでした。
う〜ん、一緒に写真撮ってもらえばよかった(笑)。

現在KUIPOの所蔵となっているコレクションは、元々は徴古裳にあったもので、正式名は『中村清コレクション』といいます。
つまり中村清さんという方が集められたコレクションで、見学会で解説をされた中村公隆さんは清さんのお孫さんにあたります。
 

 中村清氏は袋物の仕立師の父中村卯之吉氏から、袋物技術を教えられました。中村卯之吉氏は河野派の系統で張合(はりあわせ)袋物師立の名人であられ、清氏も幼少の頃から父の許で技術を教わり立派な袋物師であります。十五歳頃発念し職人より商人を志し父君の造られた品物を卸売いたしましたのが、現在の中村清商店の初まりでございます。

 清氏は昭和の初め頃から、昔の袋物類や衣装の蒐集に心掛けられ、現在のものは袋物類だけで二百余点に及びます。この中には父君卯之吉氏の製作品もあり、清氏自身造られたものもございます。この蒐集に当り御自身で袋物を造れる技術のある方ですので、おのずから製作上の面を重視したのか、種々の形態や縫製の精巧なものが集められており、仕立本位の傾向が見受けられて非常に参考となります。また時代別、形態の変遷や、素材の種別が多種多様に亘り、袋物そのものの品質より、種別が豊富であり楽しくなります。
           徴古裳:「袋物について(市川力三)」より引用 


中村清商店より続く実店舗は数年前に閉鎖されたそうですが、公隆さんにより「Com.store UNO COLLECTION」として引き継がれ、現在はインターネットによるオリジナル製品の受注販売をするということで継続されているそうです。

この中村清さんが蒐集したコレクションは『徴古裳(ちょうこしょう)』としてネット上に公開され、嚢物ファンにはたまらないサイトとして親しまれていました。
私がこのブログを開設したときも、一番にリンクを貼ったのが「SAKURA」と「徴古裳」でした。

「徴古裳」といえばもう一つ大事なのが、この重厚な装丁の図録です。


有名な「嚢物の世界」(1998年発行)も、ため息の出るような内容とお値段でしたが、「徴古裳」(1975年)はそれより約20年も前に出版されたものなので、残念ながら全ページカラーとはいきませんが、それでも豪華な帙入の装丁は特別感満載です。
私はワークショップ中にY.Kさんから「今、ヤフオクで安く出ていますよ!」との情報をいただき、帰宅して即落札しました(笑)。
このような本は持っているだけでうれしくなりますね。
「嚢物の世界」は近くの図書館にあるので、ちょっと離れたmy本箱と思って買わずに活用させていただいておりますが(苦笑)。

筥迫については皆さんの方がお詳しいでしょうとのことで、見学会ではほとんど筥迫には触れられなかった中村さんですが、
「昭和初期に結婚した私の母親は、この大きさの筥迫を身に付けていましたよ。」と言われたときは、
「そんなはずはないです!昭和初期なら現代の筥迫の大きさになっていますし、(展示の)江戸型の筥迫は5cmぐらいの厚みはありますから、すでにその頃の着付けでは胸に入らないハズです!」と私が力説すると、
「でも確かにこの大きさだった」と中村さん。
すかさずその場にいた方が、ご自分の分厚い手帳と私の分厚いサイフを重ねて、着ていた着物の襟に挟み、
「ほら、こんな感じですよ!」(ものすごい存在感)
「あら、入るわ!」などと大騒ぎ。

その後、中村さんの素性がわかったところで「だから中村さんのお母様が婚礼で江戸型の筥迫をしていたというのは、やはり本当のことなんですよ!」(老舗嚢物商に嫁がれた方なら然り)と、移動中の電車内で皆で納得の結論に達したのでありました。
う〜ん、写真が残っていたらその真実をこの目で見てみたい。


徴古裳の嚢物たちがKUIPOの所蔵になったことで、年に2回の一般公開とはいえ、私たちにはより身近な存在になったかもしれませんね。
いつまでもこの素晴らしいコレクションが、時を越え多くの方々のため息を誘うものであってほしいと願わずにはいられません。

中村さんの企画する「Com.store UNO COLLECTION」の金唐革のハンドバッグは、全てオリジナル一点物だそうです。
「あなたのためだけ」に作られた一品。
そんなコンセプトは、昔ながらの嚢物商の心意気を継いでいらっしゃるような気がします。

金唐革のバッグと私たちの作る筥迫ではレベルにずいぶん差はありますが、現代の筥迫もそんな特別な思いで作って欲しい、と思う気持ちは同じだなと思います。


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