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定家文庫『孔雀』〜矢部博子先生の作品
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    お針子会刺繍教室作品展のお知らせ(ポスター&はがき)をこのブログでご紹介したのが4月初めで、もうすぐ6月という今になってやっとこの定家文庫の解説をすることになりました。

    このすばらしい刺繍はお針子会刺繍教室の矢部博子先生の作品です。仕立てはもちろん筥迫工房。


    さて、まずは『定家文庫(ていかぶんこ)』とは何ぞや?からですね。

    「定家文庫」「定家袋」「定家筥」とも呼ばれているようですが、この「定家」が何を意味しているのか書かれた物がないので今イチ不明。
    私は一言で説明するときは「化粧道具入れ」と言っていますが、実際には化粧道具を含む小さな身の回りの物を入れていたようです。

    実はこの定家文庫については、残されている文献が少ないようです。
    私の手元にもそれほど資料はないのですが、とりあえず今あるものの中から引用してみます。

    まずは『日本の美術5 女の装身具』(1999年5月発行)から。
    カラー頁に東京国立博物館所蔵の定家袋が紹介されていますが、びっしりと刺繍で埋め尽くされた定家文庫と、それを乗せる専用の台も定家文庫とお揃いの装飾で仕立てられています。
     

    定家袋は、武家女性や富裕な女性が化粧道具その他の小物を入れて、お供の女性に持たせた手提げ袋。
    厚紙で作った箱型の芯をこの作品のようにビロードその他の生地で包み、室内では専用の台にのせるが、この台も本体の共裂で仕立てることが多い。(「日本の美術5」P.7引用)

     

    定家袋は「定家筥」「定家文庫」ともいい、武家女性や富裕な女性が化粧道具その他の小物を入れて、お供の女性に持たせた手提げ袋で、直接身に付けるものではないが、筥迫とやや類似した性格をもつものとして紹介しておく。
     厚紙で作った箱型の芯を織物の生地や刺繍を施した生地などで包み、房付きの紐飾りを付けたものが一般的である。
    室内に置いておく場合には専用の台にのせるが、この台も定家袋の本体同様、刺繍などで美しく飾られることが多く、しかも本体の共裂を用いることが少なくない。(「日本の美術5」P.36引用)

     

    桐製の箱物仕立てで、『類聚名物考』にも起源はあまりはっきりしないが名称は掲載されている。
    『守貞漫稿』に類似した箱を持つ図があり、そうふくろ(粧袋、総嚢か)とある。
    主人の妻娘の粧具を納めた箱を錦の嚢に入れて組緒で結び、晴れの時は、小婢、長婢が携えて従うことは、京坂で古風を残すひとつである。
    江戸では従来これは用いていないと記される。
    手元に残っているものから判断すると、携帯用の化粧道具一式を納めたものといえる。内容品は、蓋の部分に金属製鏡が入り、立てかけて使用できるようになった もの、共布製の楊子入れ、針山つき針入れ、紅板と金属鏡が納められた紙入れ、そのほか、紅、紅筆、白粉、刷毛入れ、紅入れ、金属製紅板、薬入れ、歯ブラ シ、白粉刷毛、櫛類そのほか化粧容器を納めたものなどがある。実際の使い方ははっきりしない。
    大正期に、婚礼用の袋物として用いたという話しもあるが、実用としてどこでも使用可能な状態である。(「日本の美術5」P.96引用)




    約20cm×10cm×10cmぐらいの箱に装飾裂を被せ、上に房付き紐があって上開きという形状をしたものを定家文庫と呼んでいるのだと思いますが、実際にはいくつかのタイプがあります。

    まず「専用の台にのせる」タイプは江戸期の物に多く、京坂の文化であったことから、お揃いの台を作るぐらい豪華な物なら、公家の姫君あたりが使われていたのではないでしょうかねぇ。

    この台置きタイプに多い形状は、四隅に三角状のヒダを付けた独特な畳み方で、上のリボン結びを解いて開きます(KUIPO資料館定家文庫参照)。
    KUIPO所蔵のものは大正時代の物で、すでに専用台はないですが、江戸時代のものよりもかなり洗練された形になっています。
    今回の物よりずっと複雑な形です。

    寄せひだの美、組紐の美に見とれながらひもをとけば、口の部分が朝顔の花のように開く。
    箱物仕立ては難しいとされ、熟練した袋物師の手にかかった。(中略)婚礼用で、嫁入りのときに、女の道具、十三そろいを入れたという。この種の形と作りのものは、“定家文庫”といわれて、後世に伝わる。(季刊「銀花」第21号引用)


    これが江戸期の同じ形状になりますと、紐はもっと細く長い物が使われていたようです。
    ↓こちらの方のブログに東京国立博物館の定家文庫の画像がありますのでご参照ください(スクロールしたず〜っと一番最後の画像です)。
    東京国立博物館 Part 1

    先の解説にある「お供の女性に持たせた手提げ袋」というのは、この長い紐を見て、明治以降に使われるようになった信玄袋に連想して「手下げ袋」と思ったのではないんでしょうかねぇ。
    だって手提げ文化のない時代に、わざわざお供の者がこんな豪奢な箱をぶらぶらと下げているなんてありえない(笑)。

    更に上のブログでは「化粧道具やさまざまな小物を入れて持ち歩いた箱型の巾着袋」とありますが、巾着といえば確かにそのような形なのですが、巾着=下げるというイメージが強いので、こちらもなんだかう〜んという感じ。

    ということで、こちらの解説が正確なところではないかと。

    高貴な女性が化粧用具や鏡、身の回り細かな品々を収めて携帯した筥である。
    お付きの伽(とぎ)の少女が両手で支え上げて持って運ぶが、道中落さないように筥の裏に手を差し込む帯が付けてある。
    天鵞絨や羅紗の貴重な裂に刺繍で飾る。(田村コレクション「女の装い三百年」P.146より引用)


    私の持っている定家文庫は二つあって、現にその一つにはこの「差し込み帯」が付いています。

    かなりシンプルな定家文庫。


    これが底面の「差し込み帯」。

    もう一つの定家文庫には付いていないし、これも申し訳程度の差し込み帯です。
    これでどうやって「両手で支え持つ」の?と思ってしまいます。
    もしかして、持ち運ぶのを見せるという行動はすたれて、時代とともにただの飾り物になったのでしょうか。

    専用台に乗せるような豪華な定家文庫は落したらただ事ではすまないので、もっとしっかりした差し込み帯が付いていたでしょうし。
    でもこれがあると置いたときにガタガタしてしまうので、専用台の底は穴が開いているかもしれませんね。

    とにかく、定家文庫は「手提げ袋」ではなく「支え上げて持った袋」だということです。

    筥迫と定家文庫は「懐中」できる大きさにしたか「支え持ち」する大きさにしたかの違いだけで、豪華な装飾を施したところは同じですし、この二つは類似した袋物であることは確かです。

    定家文庫は京坂で古風を残すひとつであり、江戸では従来これは用いていないこと、紙入の装飾が女官の趣味程度に扱われていた御所周辺とは違い、江戸では贅沢な筥迫を作る専門職があったことなどから、「京坂の定家文庫、江戸の筥迫」と分けられるのかもしれませんね。


    そしてもう一つのタイプが今回のこの形(単純な折り畳み方)です。
    一般的にアンティークとして出回っているものはこの型で、たぶん大正時代に婚礼道具として上流社会に使われた頃のものだと思われます。
    これは前後左右と四面を開いて使います。
    この型の詳細と中の構造は、この後のmodoriさんの定家文庫のときに解説したいと思います。



    定家文庫の刺繍

    以前から刺繍をする人たちに「定家文庫の刺繍やりませんか〜」と声をかけまくっていましたが、一般の人が定家文庫を知っているはずもなく、笑顔でスルーされ続けてきましたが、今回はなんと言っても作品展。
    作品展の目玉が定家文庫というのはかなりイケる。
    ということで矢部先生とmidoriさんが協力してくださいました(感謝)。

    とにかく私が先生にお願いしたのは、「凝った繍い方をしなくていいので、とにかく画面を埋めてください!」でした。
    そして出来上がったのがこの作品。

    こんな角度で撮っているのは、ポスター用に金糸の煌めき感を出すためです。

    先生には下図の段階で何度も何度も描き直しをしてもらい、定家文庫にふさわしい図案を二人で練り込みました。
    (生徒が先生に何度もダメ出しするとは、、、アセアセ

    しかしベテランの先生といえど、普段は着物や帯等の平物ばかりなので筥用に図案を描くのは正直わからないところです。

    そこで、下図が届く度それを定家文庫の基礎となる桐箱に貼り付け、その上から房をかけて撮影したものを先生に送る、ということを繰り返しました。
    ここはもっと図案を詰めてくださいとか、ここは角まで伸ばしてこの角度で等のアドバイスをさせていただき、ようやくできたのがこの作品。

    お〜完璧!!
    もちろん図案は矢部先生がご自分で描かれたものです。
    うちの先生はホント絵がお上手なのです。(エッヘン!)


    定家文庫の醍醐味は、この前面から側面にかかる柄合わせ。
    いかにも「柄が合っている!」と思わせる図案が効果的。


    天面部分にも房をよけて、図案がびっちり詰まっていてすごくゴージャス。

    飾り房の一部を後ろについた金具に引っ掛けて留めます。
    この金具は銀細工職人のT氏に依頼して作っていただきました。

    定家文庫の材料は全て特注なので、一つ一つに苦労があります。
    現代でこういうものを作ると、仕立てる技術よりも、このような材料を調達することの方が遥かに困難。
    今回の定家文庫では、私にとってこの目立たない金具が一番のこだわりどころでした。



    定家文庫に命を吹き込むかのような「飾り房」の存在はとても重要です。
    しかしギリギリで仕上がった刺繍に合わせて紐の発注をかけていると時間がかかり過ぎるので、ポスター撮影に間に合わせるために私の手持ちの定家文庫(アンティーク)の房を取り外して仮使用しました。

    その後、懐剣房と同じ「切り房」で私が作ることになっていたのですが、どう見てもこの豪華な刺繍にこの撚り房はぴったり。
    そしてこの微妙なアイボリーの色合いもばっちりということで、結局この房をそのまま使うことになりました。

    元の錦裂の定家文庫に付いていたときは撚り房が二つだったのですが、刺繍物を使うときはボリュームがありすぎて邪魔。
    ということで一本は取って使うことに。これで完璧。

    実はこの定家文庫の材料の中で、(刺繍は別として)最も高価なのがこの飾り房(撚り房付組紐)なのです。
    レーヨンの既製品だったらいくらでも安い物はあります。
    でも「正絹」で、この微妙な「色」で、この特徴的な「房頭」で、同じ撚り房を作ろうとすると驚くほどの値段になります。
    ですから、もしこの定家文庫が売れる時があったら、そのときに新しい撚り房を新調しようと思っています。


    今回この定家文庫を作るために、材料を全て最低ロットで特注しなければならなかったので、覚悟していたとはいえ大きな段ボールが届いた時はびびりました〜。
    ということで、刺繍の定家文庫を作りたいと考えている方がいらっしゃいましたら、是非筥迫工房にお仕立てご用命ください(笑)。

    材料のみの販売もいたしますが、作り方を教えて欲しい〜という方は研究会上級以外でないとちょっと考えられない。
    というのも、一万円以上かかる材料で練習なんてできないため。

    となると、始めから豪華な裂を使って作ることになるのですが、貼り込みに相当なれていないと大事な刺繍裂を汚しまくることになるので、講習会などで教えるのは怖すぎてとても責任が負えない、、、。
    筥迫などで貼り込みに慣れている人なら簡単かも、ということで研究会上級以上としました。
    研究会に来てまで労力かけたくない人は、材料買ってご自分で何とか工夫して作ってみてください。

    刺繍裂でなくても、思い出のある留袖なんかを定家文庫に仕立て直すというのもけっこうすてきかもしれませんね(着物使用なら、二面だけなら柄合せ可)。



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    【2015.05.26 Tuesday 22:04】 author : Rom筥
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