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こんな筥迫もある 〜はぐれ猫さん提供〜
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    先日の講習会に参加されたはぐれ猫さんが、おもしろい筥迫を見せてくださいました。

     

    こちらがその筥迫です。

    アンティークの筥迫によくある、二羽の鶴が刺繍された婚礼用筥迫です。

     

    婚礼用筥迫の図案では、鶴と松、扇と花、鶴の番い、鶴と亀、鳳凰、というのはよくあるモチーフですが、「おしどり」は見たことがありません。

     

    おしどりというのは常にくっついてはいるものの、実際はメスが他のオスに取られないように見張っているだけらしく、雛が生まれるとすぐに離れてしまうし(子育てに協力しない)、翌年になればまた別のお相手とくっつくという、一年限りの自由恋愛のようです(苦笑)。

     

    そういう意味では「鶴」の番いこそが「死が二人を別つまで」一途な愛を貫くのですね。

     

    着物の襟から出る左側に目一杯柄を詰め込んでいるのもお馴染み。

     

    日本刺繍の筥迫は、年が下がるにつれ胴締めには顔や胴体などの主要なパーツを入れないように図案を配置していくようになります。

    この筥迫も羽と扇で何とか柄合わせを表現しているようです。

     

    細い胴締めとはいえ、ここに被せと同じボリュームで刺繍を施すのはそれなりに手間も時間もかかりますので、時代の流れで職人の工賃も高くなったということでしょう。

     

     

    しかし、今回はそんな世知辛い話題がメインなのではありません。

     

    一見普通に見えるこの筥迫から何が出てくるか、まずは胴締めを外して見てみましょう。

     

    あら?

     

    あらら??

     

     

    じゃ〜ん!!

     

     

    前部分と紙入れが二つに分かれているではありませんか びっくりびっくり

     

    つまり、どちらも単体として使えるということ。

     

    通常の筥迫ってのは、前部分の三つ折り(鏡)と、後ろ部分の紙入れの二層構造になっているものなのですが、この筥迫はそれが別々に分かれています(二部式)。

     

    それでは、手前側の通常「鏡」がはめ込まれている三つ折り部分を開いてみましょう。

    実はこちら、三つ折りではなく「がま口」になっています。

     

    このがま口型、以前、徴古裳のサイトで見かけたことがあります。

    当時は「不思議なものを考えつくな〜」と思ったものです。

    後ろは折り襠なので、四つ襠仕立ての前側が小被せではなくがま口にしているという、完全に今時のお財布です。

     

    つまり「お財布」と「紙入れ」を合わせて筥迫に見立てちゃった!という型なのです。

     

    実は私もこの二部式の筥迫を持っています。

    がま口部分はなく、前は単純な折り襠の紙入れですが。

     

    何気なく入手した筥迫でしたが、家に帰ってよく見てみると、あらびっくり二つに分かれている!

    私はこれを「二部式筥迫」または「合わせ筥迫」と呼んでいます。

     

    おもしろいのでいつか作りたいとは思っていますが、さすがにがま口仕立てにすると現代的すぎるので小被せに留めるかな〜。

     

     

     

    びっくりが楽しい懐中物

     

    袋物の中でも、提げ物の「煙草入れ」は表の装飾が豪華で、展示や図録などでも見栄えがする華やかさですが、私は展示のしがいのない懐中物に惹かれます。

     

    紙入れは表のデザイン性よりも、持つ人の嗜好を仕様の中で表現している物の方が圧倒的に多い(筥迫は装飾がメインなので例外)。

     

    つまり凝った作りであるにも関わらず、紙入れは懐中という見えないところに収めるもので、煙草入れは腰に下げて人からよく見えるところに収める。

    この二つは性格が全く違うのです。

     

    ですから、中を開いて説明書きをするなどの展示をしないと紙入れの良さはわからない。つまり展示のしがいがない。

     

    ちなみに紙入れは基本「全懐中」だと思います(懐の奥深くに仕舞う)。

    筥迫は装飾性が故に「半懐中」なので、落ちやすい=落とし巾着(ストッパー)が必要なのです。

     

    元々紙入れは、その名のごとく紙を入れるために作られた単純な形状でしたが、バッグを持たない文化にあって、次第にこまごまとした携帯品(七つ道具等)を入れるようになりました。

     

    小銭入れ単体としての袋物はあったでしょうが(たぶん庶民はそういうものを使った)、経済的に余裕のある人たちは多用途で使える紙入れを愛用したのです。

     

    現代であれば既製品がふんだんにありますから、その中から自分の使い勝手に合ったものを探して、その組み合わせによって様々なオリジナリティを出すことはできます。

     

    しかしこの時代の人たちにとっては、自分の使い勝手に合った物は特注するしかありませんでした。

     

    そして限られたスペースしかない懐中に入れるものですから、入れる物はかなり吟味して限定したと思います。

     

    それでも入れたい物の種類が多ければ、それをいかに省スペースで収納するかが袋物職人の技の見せ所だったでしょう。

     

    入れる物によって内部構造は複雑さを極め、物によっては15もの口(ポケット)が付いた紙入れがあったそうです。

     

    自分にとって必要な携帯品は人それぞれ違うもの。

    それが個性となって紙入れに現れます。

     

    現KUIPOの所蔵品に、中の仕切りに「藤娘」の刺繍が入った紙入れがあります。

    なぜ表に刺繍をしないで中に装飾を入れる?と思ってしまいますが、実際にはお気に入りの役者のブロマイドを入れているような感覚なのだと思います。

     

    当時の人からすれば極当たり前の発想や実用品が、現代の私たちからはひどく奇抜で奇妙なものに見えたりします。

     

    つまり、いつもの筥迫に見慣れた目にこの合わせ筥迫はとても不思議な型に見えますが、よくよく考えてみれば、それほど奇抜な発想ではありません。

     

    一昔前の筥迫には「折り襠」が付いているものがたくさんありましたので、それならはっきり「がま口」にした方がいいという発想なのか(折り襠がついたら小銭を入れるという発想になる)、筥迫は結婚式しか使えないから、後で単体で使えるように二部式にした方がいいという発想なのか、いずれにせよごく自然な発想のように思われます(現代的には二層式の筥迫の方がずっと奇抜)。

     

     

    私は昔の袋物を数多く収集しています。

    かつての職人がどんな考え方でどんな袋物を作っていたのか知りたいというのが目的。

     

    しかしながら、こんな楽しい袋物が作られていたのは昭和初期ぐらいまでのお話。

    戦後を挟んで消費の時代に入ると色々なものががらりと変わっていきます。

     

    儀礼としの装身具に特化され、実用性のある紙入れは完全に姿を消しました。

    時代の流れの中で唯一残った筥迫は装飾性だけが意味を持ち、実用性のない装身具となったのです。

     

    それはなぜか?

     

    その人仕様で複雑に作られていたからこそ価値のあった懐中物なので、既製品でそれは賄えないということなのだと思います。

     

    洋服文化になって外国から頑丈な手提げのバッグもたくさん入ってきてしまいましたし、生活の中にあった着物がおしゃれ着になったことにより、懐中に実用性を見出せなくなったのでしょう。

     

     

    それでも、日本人の発想ってホント面白いと感心させられる袋物が多いので、これらを埋もれさせてしまうのはあまりにも残念。

     

    でも着物と密接につながっているのが懐中袋物なので、着物を愛する私たちがそれらを自身の手で作ることができたら?

     

    ですから、これらを現代の人にも楽しんでいただきたい、そして未来にもつなげていきたいという思いから、これらを一つずつ再現してマニュアル化することを私のライフワークとしたのです。

     

    そろそろ懐中袋物が復活してもいい頃ですよね、皆さん。

     

     

     

    はぐれ猫さん、今回は大変興味深い資料をありがとうございました。

     

    他にも面白い袋物をお持ちの方がいらっしゃいましたら、是非画像提供いただければ幸いです。

     



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    【2017.03.23 Thursday 20:22】 author : Rom筥
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