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どっちが上? 二ツ折小被付筥迫

以前、講習会受講のためにいらしたK.Wさん(富山在住)が、東京の某ショップで購入したというアンティークの筥迫を持ってきてくださいました。

 

ちょっと謎の多い筥迫なので、いつかブログに使わせていただきたいと画像を残しておいたので、今回はこちらをご紹介させていただきます。

 

型としては「二ツ折小被付筥迫」に可愛い日本刺繍が施されたものです。

何が不思議かわかりますか?

 

筥迫は「紙入れ」が進化したものです。
二つ折りは紙挟みタイプの紙入れなので、被せというものがなく、いわゆる「胴」の前面、背面という区別です。

 

その胴の花の向きが天地逆?

更に胴締めを付けると、柄が合わない??

 

つまり、このような向きで懐中に差し込むのでしょう。

 

でも紙挟みは「挟む」ものなので、普通に考えて口が上だと思うのですが、、、。

 

二つ折の場合は、簪は簪挿しごと横から差し込みます(本体に差し込み口がある)。

 

開くとこんな感じなので、手前の小被せが下向きになるとも考えられない。

 

 

アンティークの筥迫の中には、被せ本体と胴締めの柄を合わせると、胴締めの天地が逆転してしまうものがあります。

つまり柄を合わせると、胴締めの巾着を付けた側が上になってしまうということですね(巾着が上からぶら下がる感じ?)。

 

どうしてこんな間違った筥迫が出回ってしまったのか長年不思議に思っていましたが、ある時、わざとこのように作っていた時代があったということを知りました。

古い筥迫の中にはけっこう多くあるらしいですよ。

 

筥迫は被せのついた前部分、紙入れの後ろ部分で二層になっているのが特徴で、江戸時代の筥迫は紙入れ部分に縢り(千鳥掛け)はなく、ただ紙を挟みむだけのものでした。

そのままだと簡単に開いてしまうので、それらをまとめるための胴締めは留め具のような役割です。

 

江戸時代の筥迫は現代のものより数倍大きなものでしたが、豪華な装飾を見せるために半壊中していたのは今も昔も同じ。

 

筥迫は中に色々なものを収めることができるシステマチックな装身具でしたが、中身の詰まった筥迫を不安定な半壊中にするために、必要に迫られて落とし(巾着)がついたことは想像に難くありません。

 

当時の筥迫の成り立ちを、以下奥女中の心境を現代語に訳しつつ妄想してみました。

 

A:私らのハイソな七つ道具が全部入る紙入れってないよね〜

  紙入れ師に特注で作ってもらう?

B:なんかあんた好き勝手なこと言ったんでしょ?

  これじゃ紙入れっていうより箱だし〜(笑)

A:笑っちゃうよね〜大きすぎて襟から出ちゃうし〜(笑)

B:ここまで見えんなら、もっと派手にデコっちゃいなよ〜

A:でもさすがに重くね?これじゃすぐ落っこっちゃうよ?

B:ここにある巾着ストラップにしてさ、

  帯の中で突っ込んどけば動かないんじゃね?

A:ちょ〜頭いい!面白い形になってうける〜♡

 

おばさん無理して妄想したので、色々な時代のギャル語がミックスしてしまいました(苦笑)。

 

時代が下がって筥迫がどんどん小さくなり、落としの意味も薄れた頃、下から巾着を覗かせるのは無理があるので(すでに落としの意味も忘れられてた?)、それだったら胴締めの天地を変えたら巾着がもっとよく見えるんじゃない?とかそんなノリだったのかもしれません。

 

それを考えると、この筥迫も「この向きが絶対にかわいい」と決めて作ったのかもしれませんね。

 

西洋文化が怒涛のごとく押し寄せた明治維新は、10年あまりの短期間でそれまでの日本固有の価値観がことごとく入れ替わった激動の時代でした。

この明治維新が上手くいったのも(すごく安易な言い方ですが)、日本人の特徴である「新しいものへの強い好奇心」が根底にあったからではないかと私は思っています。

 

このように、あらゆる価値観を柔軟に取り込んでいたこの明治という時代は、嚢物一つをとっても色々な形状が生み出されました。

 

ですからこの頃の人は、胴締めの天地を逆にしちゃえとか、開きを下に向けちゃえとか、柔軟に色々なことを考えてたいかもしれないなと思います。

 

現在にその型が生きていないということは自然淘汰されたからに他ならないのですが、一つの型に統一されてしまった現代では、ちょっとつまらなさを感じてしまうのは私だけではないはずです。

 

この二ツ折はけっこう素敵な型なので、ぜひ皆さんには講習会で作って伝統を繋げていただきたいと思います。

 

 

これだけは間違えないでほしい

 

ちなみに、筥迫の本来の定義は「狭い箱」です。

 

現代の筥迫の三つ折りの鏡の部分が箱状で、その上から被せが掛かり、現代の筥迫の縢り(千鳥掛け)部分は紙を挟むだけの形状をしていました(つまり縢りはない)。

 

現代の筥迫は三つ折り部分に申し訳程度に段口があるのみで、袋物としては体をなしていないような形状です。

このような形状を「あがき」と言います。

 

ここに「折り襠」と、鏡が「差し込み」になっている型がより本式の筥迫ということになるので、いつか講習会でもこの型を組み込みたいと思っています(仕立てが複雑なので最上級レベル)。

 

現代の筥迫は、角ばった底部分と、簪挿しの角で全体を箱に見立てているようなものです。

 

それを考えると、この二つ折は底が角でもなければ、上も角が出るような形状ではありません。

江戸後期の二つ折の紙入れを簡略化した型に胴締めをつけているだけなので箱ですらない。

 

以前は「巾着を帯に落とすのは本式か否か?!」なんて議論がありましたが、私としては、筥迫を落としてもいいなら好きなだけ巾着を出せばいい(かわいいは正義)、もっと見せたいなら胴締めの天地を逆転すればいい(ポリシーを貫け)、時代の流れで色々な筥迫が出てきてもいい(評価されなければ自然淘汰)、面白い筥迫をもっと見たいとさえ思う。

 

だけどこれだけは絶対に主張したい。

 

胴締めのない筥迫はただの「紙入れ」

です。

 

筥迫は紙入れが進化したものです。

「筥迫は紙入れ」ですが、「紙入れ=筥迫」なワケではない。
 

私はテレビのドラマはあまり見ない方なのですが、たぶんテレビや映画であの時代の筥迫を忠実に再現して使われることはないと思います。

 

小道具さんが自作したと思われる簡単な紙挟み(になっているかどうかも甚だ疑問)がほとんどで、アンティークな筥迫が時々使われるぐらいのもの。

 

あれを見て「打掛を着る時は筥迫の胴締めを外す」と思い込んでいる婚礼業界の人がいることに唖然とすることがあります。

 

時代の流れの中で、筥迫が本来の箱でなくなっても、胴締めの天地が逆転しても、二つ折りになっても、びら簪が付いていなくても、誰もが筥迫として認識できる形状が「胴締め」の存在です。

 

最低限「胴締め」がなきゃ筥迫って言わんだろ、と声を大にして言いたいrom筥です。

 

 

 

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