『筥迫工房』のブログ 筥迫の作り方と材料の販売 筥迫!箱迫!箱セコ!ハコセコ!はこせこ! 管理人:Rom筥
私自身の今年の変化といえば、新規さんからの仕立ての依頼を請けないことにしたぐらいなのですが、そのためにできた時間で新しい型を試作する機会が増えたり(公開はしていませんが)、今までできなかった調べ物などにあてる時間が増えてきました。
私としては新しい型を試作しているときが一番楽しいのですが、時間をかけて出来上がったその型をどう活かそうかと考えたとき、即、講習会につなげられれば楽なのですが、そう簡単にいくものばかりではない。
自分がいいと思っても、それが人に受け入れられるかどうかは別問題です。
型が増えてくるということ
型がいくら増えようとも、私の活動において「筥迫」というものが屋台骨となっていることに変わりはありません。
講習会に来る方々も「筥迫が作れるようになりたい♡」と思って始める人がほとんどです。
仕立ての依頼も刺繍を施した筥迫がほとんどですし、やはり女持ちの嚢物の中では萌え感満載のトップオブ懐中物です。
しかしながら、筥迫のように実質「半壊中」にせざるを得ないものを別にすれば、お財布も兼ねる紙入れは、スられたり落としたりしないよう「全懐中」が基本です。
(女性は少しは出るかもしれませんが、男性の着物では半壊中する方が難しい)
紙入れの表向きは、細工を凝らした花鎖や小さな前金具はあるものの非常にシンプル。
内面は「二見形」「吉原形」「香車形」だの、型によってそれぞれに名称がつくほど、実に多種多様な仕立てがあります。
これは江戸〜明治初期頃までの傾向で、「手提げ」という外向きの文化が受け入れられると同時に内向きな紙入れ文化は消滅し、外向きな装飾具である筥迫だけが現代に生き残ってきたというワケです。
ということで、型が増えるということは、講習会でこの外向き傾向の嚢物と内向き傾向の嚢物が存在してくることになります。
見た目に可愛い「細工系」は、細かいだけで技巧は少ないいので受講者が集めやすい。
かたや内面重視の「紙入れ系」は、技術的には難しいのに見た目がワンパターンなので受講者が集めにくい。
このように同じ懐中物でも立ち位置が全く違うので、講習会の中で一緒くたに企画するのは非常に悩むことになります。
ハイテク筆箱
そんな時、ふと思い出したのが、小学校の頃に流行ったハイテク筆箱(多機能筆箱)。
ロケット発射台のようにポップアップする鉛筆立て、あらゆるところに文具が収められる多機能性にワクワクした覚えがあります。
なぜ急に思い出したか?
これって江戸時代の多機能紙入れにすごくコンセプトが似ている!!
江戸時代の人が見たら絶対喜ぶはず!
内向き文化が消えてしまったと思いきや、日本人のDNAの中に連綿と受け継がれていたのですね。
(江戸時代の人はストラップも好きだったしねぇ)
小学生の頃流行った“ハイテク筆箱”がめちゃくちゃ進化してる!
↑こちらでは、ボールペンとかマジックとか入れられるように作って欲しいとありますが、それは至って既製品的な考え方。
これは単一形状の鉛筆でこそできるギミックなのだよ。
戦後の大消費時代は既製品にまみれていくので、多様な体型の人に合う洋服、多様なニーズに合うような入れ物が作られると、やはり独創的な意匠からは離れていきます。
時代劇に出てくる市井の人々は、ただの袋状のものにお金を入れて三つ折りにし、紐でぐるぐる巻いたものを懐中していますが、こういうものこそ何でもごっちゃに入れられるし何にでも使える既製品。
(これを三徳という人がいますが、広義では間違っていないものの、私的には気持ち的にちょっと割り切れない。これについてはまた後日。)
江戸時代の紙入れの中には、多いものだと15もの「口(ポケット)」が付いていた物もあったらしく、それでも懐中できるサイズになっているということは、入れるものに合わせたサイズにきっちり作られているからこそ可能なのであって、そこに多様性はない。
つまり、指定の物以外一切入らない!ということです。
現代のように物に溢れていないので、決まった七つ道具だけで何でもまかなえちゃうという背景もあるでしょうが。
江戸時代の大店の旦那が、ハイテク筆箱を懐中しているところをイメージしてもらえばよいかと(笑)。
これを帛地で、それも工芸レベルで作っちゃうのだから凄すぎる。
外見に可愛い細工系は女の喜ぶ世界。
中身のシステムに凝るのは男の喜ぶ世界。
現代の着物男子にこのような懐中物に興味を持っていただけると、私が一人楽しんで作っているような多機能懐中物を喜んで作ってもらえるのではないのか?と淡い期待を抱いております。
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