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超アナログはデジタルに支えられる

調子が悪かったMacがかなりまずい状態になり、本日修理に旅立ちました、、、(号泣)。


戻るまで最悪二週間かかると言われているので、データに関わる事、プリントに関わる事に支障が出るかもしれません。


もしかしたらショップの対応や、来週つたえでの教室でご迷惑をお掛けすることがあるかもしれませんが、この間、どうかどうかご了承いただきたくお願い申し上げます。


確か二年前もMacがダウンして、その時もPCに対しては苦手意識が強くて〜というようなことを書いたと思うのですが、今回はアナログからデジタルに移行した仕事上の遍歴と、それでも尚超アナログな古い袋物の世界に魅せられる私の心の遍歴を書いてみたいと思います。



PCと仕事


私が筥迫作りを始めてから今年で10年ですが、キャリアとしてはそれ以前のイラストレーターとしての仕事の方が実は長い。


キャリアの始めは「建築パース(建物の完成予想図)」からでしたが、始めて一人で打ち合わせに行かされた時にセスナに乗らされたなぁ、、(遠い目)。

セスナって飛行機のあのセスナですよ。

時はバブル、工業団地を俯瞰図で描くためだけに小型機とはいえセスナをチャーターされるなんて、今思えばとんでもない話です。


海外のどでかいリゾートホテルだの、カジノのエントランスだの、仕事の内容はめっちゃkバブリーでしたが、その頃はエアブラシ全盛の時代だったので(霧吹いて絵を描くやつね)、描いている本人は全身をカバーするようなスモックを着て、防護マスクを付けての色気のない作業でした。

この頃の仕事道具は、エアブラシ、絵の具、面相筆、溝引き棒、ロットリング、スパッタリング用の網など。

すでに思い出すのもやっとの道具類ですが、当時は結構トレンドの画材だったんですよ。


大手ゼネコンのマンション販売チラシなどで、建物のバックに本物の空が合成されているものがチラホラと出てきたような時代で、PCならこんなことができるんだ〜と感心していました。


次に入った会社は「テクニカルイラスト」が専門で、機械の組み立てイラストを書くようになりました。

建築パースとの共通点は設計図を見ながらの作業というだけで、華やかな色付きの絵の具の世界から、モノクロの機械の世界に一気に移行しました。


仕事道具もドラフターと楕円定規、製図ペンにロットリングという、これも今は昔の道具たちですね。


しかし、この時代からパソコンが会社に導入され始めます。


それまで「PCで絵を描く時代になったらイラストはやめる!」と豪語していたにも関わらず、社長命令により部署の中で一番のペーペーだった私が実験台としてPC担当にさせられてしまいました。

(グラフィック系なので始めからMacです)


とはいっても、出入りの業者さんに一から環境を整えてもらって、後は絵を描くだけという状態だったので、これがなかったら今の私はまずPCなんて触りもしなかったでしょう。



結婚を機に退職し一時専業主婦になるも、性格的に耐えられず三ヶ月後には再び就活(笑)。

次は同じテクニカルでも、ライティングからデータ制作、印刷までを請け負う完全DTPの会社へ再就職しました。


ほんの数年前まで、部屋の至る所が絵の具で汚れているような環境にいたのに、すでにロットリングでさえ「何それ?」と言われるような、いかにもオフィス然としたところで、手さえ汚さず絵を描くことになろうとは、、、。


建築パースの世界も今ならすでに完全CGに変わっているのでしょうね。

時代の流れの速さは本当に恐ろしいものがあります。


その会社では主にデジカメに同梱されている取り説のテクニカルイラストを担当していました。

デジカメが世の中に出始めたまだほんの初期で、デジカメを持っていると物珍しさに人がワラワラと集まってくるような時代でした。


前社では、資料となる膨大な写真集(手作り)や版下を保管するために倉庫まで借りていたのに、今やデジカメで撮影したデータもイラストも組版も全てまとめてPC一台に収まってしまいます。

これら数人の作業者に分割されていた作業を、たった一台のPCで作業してしまう「DTP」という職種が出現したのです。


生え抜きの職人揃いが自慢だった前社も、デジタル環境に乗り切れず一気に社員をリストラしたと聞きました。

どんなに腕があっても、時代に必要とされなければ一気に用無しになるということを思い知らされたのでした。


PCやデジカメの便利さを痛感すると共に、イラストレーターであろうとも絶対的にPCの知識が必要となる時代に大きなストレスを抱えることになりました。

どんなにイラストの技術があっても、データにして納品できなければ仕事が貰えないという恐ろしい時代になったのです。


PCが使えなければインターネットで情報を仕入れることもできない時代です。

私のように否応なく順応させられた会社勤めとは違い、この時代にフリーランスだったイラストレーターたちは、個人で一からPC環境を構築しなければならなかったので、多分半数ぐらいの人が廃業に追いやられたと思います。


私の「なんでイラストレーターがDTP(何でも屋)なんてやらなきゃならないんだ!」という訴えもあっという間にかき消されるほど、時代はデジタルという激流に飲み込まれて行きました。


アナログ時代からイラストを描いていた私にとっては、PCでイラストを描く以上にDTP への拒否感は強かったように思います。


それでもデジカメのマニュアル仕事は8年も続き、その後独立してフリーランスになりました。



筥迫活動とPC


子供が七歳の七五三を迎えた時を同じくして、いわゆるリーマンショックを迎えました。

その頃関わっていた会社が一気に倒産し、その余波で仕事が激減したのですが、そこは常に何かに没頭していないといられない性格のため、その暇を持て余すかのように筥迫のマニュアル作りに集中しました。


娘のためにがきっかけではありましたが、そこで苦労して得た情報(まだ技術というレベルではなかった)をとにかくマニュアル化したいと思ったのが筥迫活動の出発点です。


誰もが自分で作ることなど考えもしない、複雑な構造と様々な手芸的要素が詰まった筥迫という装身具。

今まで嫌々ながら携わって来たDTPというデジタル仕事を、超アナログな筥迫のマニュアル作りに生かすことで、またそれを販売することで、これまでの自分の実力を試したかったのだと思います。


絶対に必要と思われるカットをことごとく免責事項に削られてきたこの恨みを、好きなだけコマ数を使ったマニュアル作りで憂さを晴らしたかったというのもあります(笑)。


筥迫が本当に好きなんですねぇ、とよく言われますが、好きとかそんな感情ではなく、あくまで自分が没頭できるほどに価値を感じる物だということです。


物を突き詰めて考えることが好きな自分の嗜好にピッタリとハマり現在に至るというわけです。

こう書いてみると、結構成り行きで生きて来たなぁと感じなくもない。



そしてこれから


筥迫活動を10年しても未だに始めたばっかり感が拭えないのは、イラストレーターをしていた頃の仕事環境の移り変わりが凄まじかったので、今のように昔の物を現代に再現するという、言わば時代に逆行した物作りをしているせいからかもしれません。


筥迫工房の活動は、江戸中期、江戸後期、明治、大正、昭和初期辺りまでの袋物文化にスポットを当てているので、一括りに「昔の袋物」とは言っても、約250年という時代の中では其処此処に大変化があるのです。

大政奉還、明治維新、戦争、その後に続く工業化の波は、今とは比べものにならない激流だったことでしょう。


多分いつの時代でも同じぐらいの速さで移り変わっているのではないかと思います。

時代の流れに左右されない物作りをしたいと思いつつも、やはり道具や材料は時代のものに頼らざるを得ない。


私自身、こんなに古い時代の物を作っているのに、今回のようにMacがなければこの古い袋物が作れないと感じてしまうほど、時代の利器に依存しきっているわけですし。



デジタル環境がなければ、精密な型紙も、詳細な手順書も作れない。

ネットショップもできなければ、ネットで呼びかけて講習会もできない。

結局のところ、超アナログな物作りはデジタルの世の中に支えられているということですね。


しかしながら私のデジタル生活は簡単な接続でさえ上手くいかないのが日常茶飯事なので、筥迫仕事よりPCの扱いで仕事が滞るというのが現状です。

本業で勉強したいことは山ほどあるのに、嫌いなPCのことを調べなければならないことが本当に苦痛。


今回も修理の業者さんに、PCのメンテナンスが苦手ならMacを二台持った方が安心でしょうねぇと言われる始末。

そんなことしたらPCを買うために仕事する羽目になってしまう。


私にとって、PCの世界は便利とストレスが相反している世界です。


習うより慣れろ的にPCの導入期を経てきた私にとって、以前以上のスピードで進んでいくデジタルという世界に一体どこまでついていけるのか。


Macが得意な家族もいないし、Macが得意な事務員さんを雇う稼ぎもないので、いつかこの環境の変化に耐えられなくなった時が筥迫活動の締めどきと覚悟しています。

(それが遅いのか早いのかは神のみぞ知る)



とにかく今は寺にこもるような気持ちで、たまっているアナログな仕立て修行に励むとします。


そしてMacなしのこの二週間を、私が何とか耐え抜けるようどうか祈っていてください。






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