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幸田文『きもの』〜婚礼衣装〜
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    最近入手した写真です。

    カードとして撮影されたものなので、実際の結婚式というわけではないと思いますが、衣装としては華族とか豊商レベルのものではないかと思います。

     

    初めは「三襲」か?との意見もありましたが、襟の下がり具合からこれは「掻取」ではないかという話になりました。

     

    ※三襲(みつがさね):白・赤・黒の三枚を重ねて着る花嫁衣装。

    ※掻取(かいどり):武家で言うところの打掛けは公家では掻取という。

     

    そして何より筥迫が江戸型!

    びら簪の下り金具も小さく、私が唯一持っている江戸型を1/3ぐらいに縮小した「箱襠型」に組み合わされたびら簪以外で見たことがないので、その希少性から明治期あたりと考えます。

     

     

     

    掻取(打掛け)

     

    明治維新以降は、上記のような極一部の階級に残るだけで筥迫も掻取も一時姿を消しますが、筥迫は明治後期に復活し、瞬く間に花嫁衣装のアイコンとなっていきます。

    しかしこの掻取が筥迫ほどの支持を持って花嫁衣装に復活するのは、筥迫からずっと遅れて戦後の貸衣装が主流となってからです。

     

    もちろんその掻取も突然現れたわけではなく、徐々に婚礼衣装に取り入れられるようになったのですが、それがいつ頃からなのか、また何がきっかけなのかずっと疑問に思っていました。

     

    その答えとなる背景が幸田文の「きもの」にありました。

    和物好きであれば読んでいる人も多いのではないでしょうか。

     

    そして私が「細雪」に出てくるとばかり思っていたくだりが、実はこの「きもの」にあることをその時知りました(苦)。

     

    それは主人公「るつ子」の姉の婚礼衣装を決めるときの様子です。

     

    式にはおかいどりが着たい、というのが姉の希望だった。

    そんなものは普通のうちでは着ない。

    身分のいい人とか、よほどお金持ちとかは着るが、なみの家では着ようという気さえおきない、特別かけはなれた衣装である。

    もし姉がそれを着たとすれば、親類はじめ誰もがびっくりするだろうし、驚いたあとは悪口をいわれるに決まっている。

    身のほど知らずの跳ね上がりもの、と。

    るつ子も中の姉も、最初にそう聞いた時には、びっくりした。

    中の姉などはひええと目をみはって、あとはげらげら笑いだした。

     

    その後、姉は父に話を切り出します。

     

    「なぜかいどりなんぞ着たいんだね?」

    「なぜだなんてー誰だって着たいわ。」

    「誰だってというのは誰のことだ?」

    「みんなよ。どこの女の子も、おかいどりは着たいのよ。」

     

    物語はこの数年後に関東大震災(大正12年)を迎えるという時代です。(ところで「ひええ」ってこの時代も普通に使われていたのね)

     

    特別掛け離れた衣装であっても、この時代の女子が掻取(打ち掛け)に憧れていたということは、彼女らの思いが戦後の打ち掛けや懐剣(貸衣装)登場につながったのだということですね。

     

    この「特別掛け離れた」というのは、花嫁衣装の歴史を語る上でのキーワードでもあります。

    つまりそれこそが「ハレの日(非日常)」にふさわしいということで婚礼衣装に取り入れられるようになったのです。

    (比較的新しい伝統です)

     

    その掻取、懐剣、筥迫の中で、筥迫がいち早く受け入れられたのは、小さい割に目につきやすく、他の物に比べ価格的にも即取り入れやすかったことは想像に難くないでしょう。

     

     

    結局父に反対されて、姉の婚礼衣装は「黒い振袖」と「藤色の色直し」に決まりました。

    筥迫場面はほんのちょこっとだけ。

    いつの間にか助手が、着るばかりに振袖の用意をしたという。

    おばあさんが、その用意があまり手順よくみごとだから、ちょっと見ておいたらどうか、といいに来た。

    行ってみた。足袋からはこせこまで、ものがみな縦長にきちんと整理されていた。

     

    掻取を親に買わせるため、妹たちも巻き込もうとする姉に反発していたるつ子ですが、最終的に父が選んだ胸に散らした千羽鶴と裾に青々と老松をあしらったその振袖は、自分の時はこのお下がりでいいと思えるほどのものでした。

     

    震災で全ての財産を失った後、るつ子の結婚が決まります。

    しかし震災直後の姉との諍いから、この振袖は貸さないと言われてしまいます。

     

    そのような状況で父は必死にるつ子の婚礼費用をかき集めるのですが、るつ子は父の愛人である「その」に婚礼衣装の相談をします。

    限られた費用で誂えたその婚礼衣装がまた見事でした。

     

    白一色に装ったるつ子は、雪のようにふんわりと花嫁の座にいた。

    かつて上の姉の結婚のとき、姉の頬に紅を刷いて、花嫁に際立った生彩を添えたるつ子は、自分の神前の式の間じゅうは紅をよせつけない白い顔でいた。

    きものの白羽二重に勝つ白さだった。

    それは母親譲りの雪国の肌理が、おしろいの下で微妙な光沢を放つもののようだった。

    こればかりは容色自慢の上の姉といえども、うらやましがる皮膚だった。

     

    今時の白無垢なんて、掛下に色柄物を使うなんて当たり前になってきましたけどねぇ(遠い目)。

     

    然し、披露になるとるつ子は自分から、紅刷毛をとって頬にもこめかみにも、色を加えた。

    角隠しを取り去って、紅い疋田(ひった)の色直しに着換えたるつ子は、引立ってみえた。

    疋田を選んだのは、そのの意見である。

    疋田は絞りではなく、染めなのだった。

    染めはずっと安い。

    絞りに及ばないことは遠いが、会場ばえもするし、かわいい。

    それにるつ子は父の負担を気にして安価にという注文をつけたからである。

    手絞りに摺り箔を置き刺繍を入れたのも疋田、ただの染めへ、裾に青竹の切り嵌めを貼ったのも疋田。

    上京してきた新郎側の親戚たちは、雪から金魚かほおずきのように変わった、華やかな花嫁におどろきの声をあげていた。

    そこまで凝るんだったら筥迫描写ぐらい入れておくれよと思いましたが、予算ないし筥迫なんて入れなかったんでしょうね。仕方ないか、、、。

     

     

    この物語は着物をからめてるつ子の人生が展開していくのですが、震災後に着るものにも事欠いたときにおばあさんが放った言葉が何とも印象的です。

     

    一生のうちにはね、覚悟して着る着物というのがある。

    たとえば婚礼の着物がそうだ、まともな女なら心にけじめをつけて着る。

     

    カッコいい。

     

     

    毎日、新型コロナウィルスの話題ばかりで心がめげる毎日です。

    人が集まる楽しみもお預けになったこんな時だからこそ、家で心を落ち着けてこんな本を読んでみてはいかがでしょうか。

     

     

     

     

     

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    【2020.02.29 Saturday 16:32】 author : Rom筥
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